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脚色中島かずき

隆慶一郎さんの『吉原御免状』を最初に読んだのは30歳頃だったと思う。

とにかく無闇に面白かった。登場する人物像も伝奇的な趣向もよかったが、全体を貫く骨太なロマンに圧倒された。自分が読みたかった物語がそこにあった。『髑髏城の七人』は、『吉原御免状』に出会わなければ書けなかった芝居だ。

その後、隆さんの著作を続け様に読んだ。『影武者徳川家康』『捨て童子・松平忠輝』『花と火の帝』・・・。あげていけばきりがない。どれもが無類に面白かった。自分が憧れる物語の目標として、いまだに巨大な山脈のようにそびえ立っている。

だから新感線で『吉原御免状』を舞台化すると聞いた時には、「自分にやれるのか」という怖れと「でも、他の人にやられるくらいなら自分がやりたい。いや、自分がやらねば誰がやる」という気概とに揺れ動いた。

舞台ならではのアレンジは必要だったが、結果、望外の好評を得てほっとした。

あの公演から19年を経た今、ようやくゲキ×シネとして新感線版『吉原御免状』が甦る。

改めて大きなスクリーンで観ることが出来て嬉しい。

みんな若いが、とにかく、堤真一さんの松永誠一郎がいい。対する柳生義仙の古田くんもまだ若くギラギラとした凄みも利いている。2人のクライマックスの死闘は圧巻だ。

新感線としては異色の本格時代劇。いのうえ歌舞伎の新しいステージはここから始まった。その意味でも思い出深い作品だ。

そして、この作品が気に入ったなら是非、隆慶一郎氏の小説を読んでほしい。新感線ファンならきっと楽しめるはずだ。いのうえ歌舞伎の源流の一つが、間違いなくここにあるのだから。