2019年春の平成版に続き2020年春の令和版と、2年にわたり劇団☆新感線の39周年を祝う“39(サンキュー)興行”として上演された『偽義経冥界歌』。しかし新型コロナウイルスの影響で2020年の東京公演の一部と福岡公演の全公演が中止となっていたこの作品がゲキ×シネとなり、映像でしか味わえない新たな魅力を加えて蘇ります。
全国公開を直前に控えた10月21日には、舞台挨拶付きの特別先行上映会を都内唯一のドルビーシネマ上映館である丸の内ピカデリーにて決行し、座長で主演の生田斗真と、この作品で劇団☆新感線に初参加した中山優馬、藤原さくらの3名が登壇! MCを務める映画パーソナリティーの伊藤さとりさんの進行で、先輩後輩の愛あるイジリあり、ツッコミあり、貴重な思い出やエピソードの披露ありと、温かな笑い満載のトークが賑やかに繰り広げられました。そのやりとりの模様を、ここでダイジェストでご紹介いたします!
――まずはそれぞれから、ご挨拶をいただけますか。
生田 えー、本日は『偽義経、鬼滅の刃』……。
中山 違うよ違うよ! タイトル間違えてる、ちゃんと読んで!(笑)
生田 キッズたちが間違えて観に来てくれるかもと思ったのに(笑)。向こうはアニメーションですが、こちらは生身の人間がバンバン戦っています。アニメももちろん面白いけれど、演劇はもっと面白いぞ! ということで、よろしくお願いします!!
中山 こうやって、たくさんの皆様に観ていただける日が来るのを楽しみにしておりました。よろしくお願いします。
藤原 今回は私も前もってゲキ×シネを予習してから、この場に立たせていただいています。いろいろな人に観てもらいたいです、どうぞよろしくお願いします。
――作品を振り返ると、どんな想いがありますか。
生田 『偽義経冥界歌』は2019年と2020年、2年間にわたって上演した作品です。2019年バージョンでは大阪、金沢、松本に行かせていただき、2020年は東京と博多で公演があったのですが、皆さんもご存知かと思いますが博多公演は一度も出来ずに東京に帰ることになり、僕たちはすごく悔しい思いをしました。東京公演も一部中止になっていたのですが、奇跡的に3月19日にライブビューイングを行うことが出来まして。その際に撮影した映像を、こうしてゲキ×シネという形で全国の皆さんにお届け出来ることになりました。これは本当にミラクル、奇跡が起きたとしか言いようがないお芝居になっていると思います。そんなことも踏まえながら、ご覧いただけたらなと思います。
――中山さんと藤原さんは、初の劇団☆新感線作品だったんですね。
中山 そうなんです。カンパニーの方々には本当に優しくして頂きました。劇団☆新感線さんといえばとても有名ですから、その中に初めて入ったらどういう自分になるんだろうと思っていたんですが、本当に現場に居やすくして頂いて。毎日がとても楽しくて、笑いながら稽古が進んでいった記憶が鮮明に残っています。今、考えてみても幸せな時間だったなと思っております。
藤原 私は、舞台でお芝居をすること自体が初めてだったんです。もともと劇団☆新感線の舞台はお客さんとして毎回のように観に行っていたので、そこに自分が出るなんてことは想像もできないことでしたけど。ずっと見ていた劇団員の皆さんやスタッフの方、共演者の方が本当に優しくて。舞台というのはこういうものなんだよと、初歩の初歩から教えていただけてありがたかったです。
――座長の生田さんの力もあって、安心だったのでは?
生田 それは、そうでしょうね。
中山 いやいや、そこは俺らが答えるところですから(笑)。今、思わずアクリル板から飛び出るところだったよ。
藤原 ふふふ。
中山 でも本当に心強かったです。座長でありムードメーカーであり。斗真くんの後ろで勉強させていただいて、良かったなと思っております。稽古でも斗真くんはまったく手を抜くことがなく、いつも全力でやられていましたからね。その姿を見るたび、自分ももっと頑張らなきゃなという思いに駆られていました。
藤原 私にもちょっとだけ、逃げ惑いながらですけどアクションをするシーンがあったんですが、とても難しくて。そうしたら斗真さんのほうが先に私のアクションを覚えてしまって、こうやってやるんだよと教えて下さったりしていたので、本当に助かりました。
生田 いや、なにしろ今回は劇団☆新感線の39周年公演で、つまり僕らの先輩方はもう40年近くやられているわけで。そうなるとだんだん上がっていた足も上がらなくなり、出ていたはずの声が出なくなる。それなのに演出のいのうえ(ひでのり)さんが求めるものは、どんどんどんどんハードルが上がっていくので、体力と、やることの大変さとが反比例していくんですよね。そんな中で、命を、魂を削って舞台に立っている先輩方が本当にかっこよく輝いて見えて。僕としてもそんな姿を後輩やお客様に見せることができたらなと思いつつ、稽古をしていたんです。
――この作品は中島かずきさんの脚本ならではのファンタジーでありつつも、義経が奥州に匿われていたという史実もベースにして作り上げられた物語となっています。生田さんは、この偽義経という役を演じてみていかがでしたか。
生田 僕が演じたのはもともとは玄久郎というキャラクターで、ひょんなことから義経の偽物として人生を歩むこととなり、戦乱の世に巻き込まれていくわけなんですけど。とにかく、バカで情熱的で愛情深くて、とんでもなく強いという、まさに劇団☆新感線のヒーロー像そのものという感じで、実際に毎日が運動会のような、スポーツの試合のような大変さがある舞台でしたね。舞台に立てている喜びが、毎日毎日感じられるような役だったと思います。
――公演中の、面白かった思い出は。
中山 公演が終わったあとや、稽古のあとに、今日はご飯を食べに行こうとか、お肉を食べに行くぞとか、そんなことも良くあったんです。なんだか、ここ何カ月にもわたる世の中の苦しい状況とかを思うと、ああ、ああいう些細なことがすごく幸せだったなと、今はすごく思いますね。
――この公演は、2019年には大阪、金沢、松本で行い、2020年には東京、福岡で行うはずが、東京は一部が中止となり、福岡では全公演が中止となってしまいました。福岡公演が中止になった時、既に現地には行かれていたそうですね。
生田 そうです。僕たちは現地入りして、博多座でずっと舞台稽古をしたり、照明のチェックや動きのチェックをやっていました。そうやって舞台上で稽古をしている途中で、福岡公演は全部中止にしますということがアナウンスされたんです。でも演出のいのうえさんが、このまま何もせずに東京に帰るには悔しいし作品も浮かばれないので、最後に無観客で通し稽古をやりましょうと言ってくださって。それで、ふだんはなかなか本番を観ることができない劇場の物販のお姉さま方とかスタッフの方々にも客席に座ってもらって、その中で最後の通し稽古をさせてもらいました。あれは、切なかったなあ。
中山 切ない以外の言葉が見つからないです。でも、あれがやれるとやれないとでは違いましたから、あの時の博多座に僕たちはこの作品でいたんだぞということを刻み付けようという時間でしたね。
生田 うん。すべてのお芝居が終わってカーテンコールをやっている最中には、博多座のスタッフの方々が、本当は劇場の周りに立てるはずだった幟(のぼり)をバーッと場内に掲げて、僕たちに見せて下さったりもして。そんな思いもあってすごく忘れられない公演になりましたし、必ずリベンジしたいなという風に思っています。
藤原 私の場合は博多が地元で、家族も知り合いもみんなチケットを取ってくれていたから、わあ、やれなかった、悔しいなと残念に思っていたら、いのうえさんが最後の通し稽古に家族を呼んでいいよって言ってくださったんです。それで、ずっと楽しみにしてくれていたばあちゃんを呼んだら、一番前の席に座っていたものだから、もう、お芝居中もばあちゃんが視界に入ってきて。すごく見つけやすかったです(笑)。
――ちなみに今回の作品では三人共、歌う場面がありましたが。
生田 僕は、中山優馬の歌を聴いたのがNYC時代以来だったので……。
中山 やめてくれやめてくれ。なんかそれ、何年も前からずーっと言うてますけど(笑)。
生田 好きなんだよ、『ユメタマゴ』がさ。
藤原 『ユメタマゴ』ですよね(笑)。
中山 今、『ユメタマゴ』の話じゃないですよ、劇中の歌のシーンの話です。
生田 やっぱりお芝居を中心にやってる後輩なので、歌とかもきちんとレッスンしていたんだなと、頼もしく思いましたよ。
中山 僕からしたら斗真くんの歌を聴けること自体がかなりレアなことなので、毎回毎回楽しかったです。藤原さん、どうですか。
藤原 私もそう思います、レアだなって思って聴いていました。稽古中も歌のレッスンで「歌うんだ!」と思ったりして。
生田 でもさ、この舞台を観たらきっとみんな、藤原さくらの歌声に魅了されると思うんですよ。だけど、もっと藤原さくらの歌を聴きたいなと思ってもCDとか出ていないと聴けないですよね、ねえ、どうしたらいいんだろう?
藤原 そんな、わざわざ宣伝みたいなことを(笑)。いや、実は本日10月21日にアルバムがリリースされました。
生田 タイトルは?
藤原 『SUPERMARKET』です。
生田 みなさん、ぜひよろしくお願いします(笑)。
――さすがの座長ですね(笑)。だけど、この作品を観ているだけでも、カンパニーの皆さんが本当に仲いいんだろうなということが伝わってきます。たとえば生田さんは橋本さとしさんと親子の役でしたが、どんなことが印象に残っていますか。
生田 さとしさんは俳優としても大好きな、尊敬している方で。その、さとしさんの濃さ、僕の濃さ、優馬の濃さで、ものすごい濃い家族だったと思います(笑)。本当にチャーミングな人で、ちょっと天然な感じもあり、あんなにハンサムでカッコ良くて渋い役者さんなのにちょっと隙があってね。また、特に今回は役名がなかなか難しいんですよ。さとしさんが秀衡(ひでひら)、僕が国衡(くにひら)、優馬が泰衡(やすひら)なんですけど、優馬の名前を呼ぶシーンで、ナニヒラか分からなくなっちゃって「うーん……、ヒラヒラ!」って言っていましたから。ホント可愛い人だなと、いつも思っていました(笑)。
――中山さんは、お母様役のりょうさんとご一緒されて印象に残っていることは。
中山 今までは演じられていた役のイメージもあって、すごくクールな方なのかなと思っていたんですよ。これは僕もそうなんですけど、顔の印象でそう思われることが多いんですが、りょうさんも実際にはどういう方なんだろうと思っていたら、とてもチャーミングで少女のような方でした。ご一緒していて本当に楽しかったです。
――藤原さんは初舞台でしたし、大変だったこともありましたか。
藤原 大変だったことだらけでしたね。セリフを、パッと失ったこともありました。斗真さんとのシーンだったんですけど、このあとどうするんだろう……って思っていたら、そのまますぐにセリフを続けてくれて、何事もなかったように舞台は進むものなんだなあと思いました。
生田 舞台はナマですし、ライブだから、セリフを噛んじゃうことなんて誰でもあることなんですけど。さくらちゃんはね、最後の最後のシーンでちょっとセリフを噛んじゃって、それは全然OKだったのに、噛んだあと「アッ……」って言っちゃって。
中山 アハハハ。
藤原 最悪でした……。
生田 お客さんにも「アッ、て言った……」って空気が流れ出す、ちょい手前くらいで僕がすぐに次のセリフを言って。
藤原 さすがでした。
中山 でも、本番中にギターのチューニングがずれていた時はそれを直しながら芝居をしていたから、この人すごいなあって思いましたよ。
藤原 ああ、ポローンってギターを鳴らしたら音が全然狂っていて。芝居をしながらチューニングを合わせて、何とか鳴らせました。
――そんな思い出もある舞台が、いよいよ全国でゲキ×シネとして観ていただけるわけです。生田さんは、ドルビーシネマでご覧になったそうですね。
生田 そうです。全国でまだ7カ所しかないそうですが、もしもお近くの映画館で観られる方はぜひドルビーシネマでご覧になってくださると、よりリアルに臨場感を楽しめると思います。とにかく音がすごくて、右から矢が飛んでくるんじゃないか、左から刀で斬られるんじゃないかというくらいでしたね。
――藤原さんも試写会でご覧になったとか。
藤原 観ました、観ました。効果音の演出が入ったり、動きもちょっとスローモーションになるところがあって、より戦いの臨場感が出るような編集がしてあって。舞台をここまで映像作品として完成させるのは、大変に長い時間がかかっただろうなと思いましたね。
――ちなみに中山さんのお気に入りのシーンは。
中山 この作品は、殺陣が多いんですよ。新感線さんの作品の中でもすごく多いほうだと聞いています。その中でも特に斗真くんがずーっと殺陣をやっていて、これがもう本当に素晴らしい迫力ですし、僕も大好きなシーンです。
生田 大きい劇場なのにきちんと細部にわたってしっかり役を落とし込んで芝居をしていることが、ゲキ×シネで観るとよく分かるんですよ。優馬も、目線の使い方とか眼光の鋭さとか、そういうことにまでこだわって演じていましたね。そこはスクリーンでしか味わえない、見どころかなと思います。
藤原 今回、私も初めて新感線の舞台を映画館で観させていただいたんですけれども、音の迫力もすごくて、自分が出ていた舞台ではありますけど本当に面白かったし、素晴らしいものを観た気持ちになれました。ぜひ、皆さんも楽しんでください。
中山 この作品をやっている最中は体力的にはしんどい日もありましたけど、とても元気になれる作品でもあったんですよね。この作品を観ることできっと元気をもらえるはずだと思いますし、それだけの迫力ときらびやかな照明と、細部までこだわった衣裳、さまざまな要素が合わさって素晴らしい作品になっていると思います。
生田 昨今は舞台の中継が配信されたり、DVDで観られることも増えてきましたが、ゲキ×シネの場合はもう、レベルが違います! これはすごいですよ。ナマの舞台では見られないような、汗とか涙とか呼吸や空気というものがすべて、臨場感として伝わってくると思うので。とんでもないクオリティで演劇を味わえる、新しい体験が映画館でできるはずです。ナマの舞台で観て下さった方も、ご覧になれなかった方も、ぜひたくさんの方にご覧になっていただきたいです。よろしくお願いいたします!
TEXT:田中里津子 撮影:阿久津知宏